電鋳

 電鋳(electroforming)は電気めっきを利用して品物(成型品)を作ることから命名された言葉である。  ここで、めっきは表面処理技術、電鋳は成型加工技術と分類することもできる。  電鋳法では、まず母型(鋳型やマスター、マンドレルとも呼ばれる)に電気めっき、または無電解めっき法により金属を析出させた後、この金属を母型から剥離して製品とする。  母型が金属の場合には剥離のための表面処理を施し、非金属の場合にはめっきを行うための導電性処理を施す必要がある。

 この技術の特徴は母型の精密な転写性にあり、古くから印刷版やレコードの原版の作製に使われてきた。電鋳は母型の形状を忠実に正確に複写すもので、母型の精度が高ければ高いほど、それから作製される電鋳製品の精度も高くなる。  従って、現代のようなサブミクロンの加工精度が要求されるハイテク社会では、この技術が再び脚光を浴びている。すなわち、従来の機械加工技術では作製できないような超微細部品の製作がフォトレジスト法の技術を併用して可能となり、また、 レーザーデスクのような精密で大量生産が必要なものの成型用金型の製造などにも成力を発揮している。

a)電鋳加工の特徴

 電鋳加工の特徴はその優れた転写精度にあるが、その精度は鋳型の表面の0.1μm の凹凸を転写でき、寸法精度では円筒形状で10μm以内、平面形状では1mにつき約20μm以内にコントロールが可能であるとされている。また、加工原理から判るように、薄肉加工が可能なことと、母型の材料にはその目的により、金属や非金属を問わず幅広い材料が使用できることである。

b)電鋳用めっき金属

 電鋳用のめっき金属としては、銅およびニッケルが一般的であり、装飾品の作製には金や銀が使われてきた。  しかし、近年のめっき技術の進歩に伴い、より性能に優れたNi-Co合金をはじめ、各種複合分散めっきなども使われるようになった。

 電鋳加工において最も重要なことは、内部応力の出来るだけ小さいめっきを使うことである。
一般に、めっき層には大きな内部応力が存在するため、これで電鋳を行うと、製品に歪が生じ、変形するので精度が著しく低下する。従って、内部応力の発生しないようなめっき浴組成やめっき条件を選定する必要がある。 このようなことから、ニッケルめっきではスルファミン酸浴や内部応力減少割としてのサッカリン等が広く利用されている。

c) 母型の材料とその表面処理

 母型に使われる材料は、金属では鉄、ステンレス、銅および銅合金、アルミおよびアルミ合金、亜鉛、鉛等があり、非金属ではエポキシ樹脂、油脂、各種プラスチック、石膏、ガラス、ゴム、セラミック、皮革等がある。  これらの材料はその目的により使い分けられているが、金属の場合にはめっき後の剥離を容易にするためその表面に剥離層を形成させ、非金属の場合には伝導性を付与するため電導性皮膜を設ける必要がある。  剥離層にはそれぞれの金属の酸化膜や化合物皮膜が用いられ、伝導性の付与には銀鏡反応法や無電解めっき法、黒鉛や金属粉末の塗布法等が用いられる。

d) 電鋳の応用例

精密金型:
通常の金型は機械加工や放電加工で主に作られている。これを電鋳法で作ると次のような利点がある。第一に精度が高いこと、第二に金型を幾つも複製できることにある。利用例としてはプラスチックの射出成型用金型やダイカスト用金型、ガラス繊維強化樹脂製造用金型などがある。
金属箔の製造:
プリント基版に用いられている銅箔はゆっくり回転しているドラムの一部をめっき液に漬けてめっきを行い、これを連続的に剥離して製造されている。同じような製法によりニッケルや鉄の箔なども作製される。
金属平板メッシュ、フィルター等:
母型上に光感光性のフォトレジスト法でメッシュやフィルターの図形をパターニングした絶縁皮膜を設けた後、めっきを行いこれを剥離して製品とする。身近なところでは電気カミソリの刃がこの方法で作られている。
紙幣、有価証券用印刷版:
極めて精密な印刷を行うときには、電鋳法により印刷版を作製する。例えば、紙幣印刷用の原版は優れた彫金師により極めて精巧なものが作製され、これを母型として実際の印刷版が幾つも複製される。
光読み出しデスク:
このデスクは映像と音の再生に用いられている。これらのデータは通常、深さ0.1μm、幅0.4-0.6μm、具さは 0.5-2μmの浅いビットが螺旋状に並んだトラックとして記録されている。トラックを1.6μm間隔とすると1枚のデスクでは全長30kmとなり、その情報量は約3×1010=ビット、映像時間にして約30分となる。このようなものを電鋳加工するには特別に清浄化した水やクリーンルームでの作業が必要となる。
宝飾品の作製:
一般の景金属による装飾品の作製はロストワックス法やプレス法で作られるが、電鋳法を使うと軽量で複雑な形状の物を大量生産できる利点があり、近年この手法による製造法が注目されている。
航空宇宙関係:
軽量で精密な導波管やアンテナをはじめ、スペースシャトルやエイリアンロケットのエンジンの主要部品が電鋳法で作製されている。

 以上、電鋳法の応用例をいくつか述べたが、これらは実用化されているものの一部に過ぎず、自動車や家電、産業機械などの分野では更に多くの部品がこの方法で作製されている。
今後はマイクロマシンの部品作製とか、ホログラフィなどの光学関連分野、エレクトロニクスなど、種々の先端技術分野での活用が期待される。

 


電鋳金型 (資料提供:株式会社ヒキフネ)

電鋳金型は、プラスチック用金型、ゴム金型、RIM成形用金型などに利用され、本型ならびに簡易金型に使用されます。電鋳金型は、他に類を見ない転写性寸法安定性が特徴です。電鋳キヤビティは、表面に応力の少ないスルフアミン酸ニッケル合金めっきにすることにより、高硬度で、バリやパーティングラインの少ない金型が作製できます。


ファインダーレンズの拡大写真

皮膜の硬度

スルフアミン酸ニッケルーコバルト合金(表面部) 400Hv
スルフアミン酸ニッケル 260Hv

用途

@微細なパターンのある金型 優れた転写性を利用して、精密パターンを反転します。
光学系特殊レンズ、導光板など。
Aアンダーカットのある金型 ゴムなどの金型に使用します。筆記具のグリップ、ラジコンカーのタイヤ、カメラリングなど。
B直彫りが不可能な金型 機能要求のある製品、襟雑なデザイン(ヘアライン、鏡面、凹文字等の組み合せ)。ウォームギア、ヘリカルギア、極小穴金型、家竜部品など。

精密肉盛電鋳
金型の寸法不良の修正、精密部分の摩耗の補修に、電鋳による肉盛が可能です。

肉盛電鋳の利点
@加工温度が60℃以下と低いため、変形なく肉盛精度も高く、削りだしも容易で精度の高い仕上げが可能。
A三次元形状にそって均一に肉盛ができる。
B深い彫り込み底部などの溶接、溶射の困難な場所への肉盛が可能。
C肉盛部分以外にダメージをあたえない。



硬さ換算表 (資料提供:山本科学工具研究社)
硬さ換算表 (SAE J 417)〔鉄鋼材〕
ロックウエルC ビッカース ブルネル硬さ
HB 10/3,000
ロックウエル ロックウエル
スーパーフィシャル
ショア硬さ 引張強さ
(近似値)
MPa
標準球 タングステンカーバイト球 A
60kgf
B
1/16
ボール100kgf
D
100kgf
15−N
15kgf
30−N
30kgf
45−N
45kgf
68 940 85.6 76.9 93.2 84.4 75.4 98.0
67 900 85.0 76.1 92.9 83.6 74.2 95.6
66 865 84.5 75.4 92.5 82.8 73.3 93.4
65 832 (739) 83.9 74.5 92.2 81.9 72.0 91.2
64 800 (722) 83.4 73.8 91.8 81.1 71.0 89.0
63 772 (705) 82.8 73.0 91.4 80.1 69.9 87.1
62 746 (688) 82.3 72.2 91.1 79.3 68.8 85.2
61 720 (670) 81.8 71.5 90.7 78.4 67.7 83.3
60 697 (654) 81.2 70.7 90.2 77.5 66.6 81.5
59 674 (634) 80.7 69.9 89.8 76.6 65.5 79.7
58 653 615 80.1 69.2 89.3 75.7 64.3 78.1
57 633 595 79.6 68.5 88.9 74.8 63.2 76.4
56 613 577 79.0 67.7 88.3 73.9 62.0 74.8
55 595 560 78.5 66.9 87.9 73.0 60.9 73.2 2075
54 577 543 78.0 66.1 87.4 72.0 59.8 71.7 2015
53 560 525 77.4 65.4 86.9 71.2 58.6 70.2 1950
52 544 (500) 512 76.8 64.6 86.4 70.2 57.4 68.8 1880
51 528 (487) 496 76.3 63.8 85.9 69.4 56.1 67.3 1820
50 513 (475) 481 75.9 63.1 85.5 68.5 55.0 65.9 1760
49 498 (464) 469 75.2 62.1 85.0 67.6 53.8 64.5 1695
48 484 451 455 74.7 61.4 84.5 66.7 52.5 63.1 1635
47 471 442 443 74.1 60.8 83.9 65.8 51.4 61.9 1580
46 458 432 432 73.6 60.0 83.5 64.8 50.3 60.6 1530
45 446 421 421 73.1 59.2 83.0 64.0 49.0 59.4 1480
44 434 409 409 72.5 58.5 82.5 63.1 47.8 58.2 1435
43 423 400 400 72.0 57.7 82.0 62.2 46.7 57.1 1385
42 412 390 390 71.5 56.9 81.5 61.3 45.5 55.9 1340
41 402 381 381 70.9 56.2 80.9 60.4 44.3 54.9 1295
40 392 371 371 70.4 55.4 80.4 59.5 43.1 53.8 1250
39 382 362 362 69.9 54.6 79.9 58.6 41.9 52.7 1215
38 372 353 353 69.4 53.8 79.4 57.7 40.8 51.6 1180
37 363 344 344 68.9 53.1 78.8 56.8 39.6 50.6 1160
36 354 336 336 68.4 (109.0) 52.3 78.3 55.9 38.4 49.6 1115
35 345 327 327 67.9 (108.5) 51.5 77.7 55.0 37.2 48.6 1080
34 336 319 319 67.4 (108.0) 50.8 77.2 54.2 36.1 47.6 1055
33 327 311 311 66.8 (107.5) 50.0 76.6 53.3 34.9 46.6 1025
32 318 301 301 66.3 (107.0) 49.2 76.1 52.1 33.7 45.5 1000
31 310 294 294 65.8 (106.0) 48.4 75.6 51.3 32.5 44.6 980
30 302 286 286 65.3 (105.5) 47.7 75.0 50.4 31.3 43.6 950
29 294 279 279 64.7 (104.5) 47.0 74.5 49.5 30.1 42.7 930
28 286 271 271 64.3 (104.0) 46.1 73.9 48.6 28.9 41.7 910
27 279 264 264 63.8 (103.0) 45.2 73.3 47.7 27.8 40.9 880
26 272 258 258 63.3 (102.5) 44.6 72.8 46.8 26.7 40.0 860
25 266 253 253 62.8 (101.5) 43.8 72.2 45.9 25.5 39.3 840
24 260 247 247 62.4 (101.0) 43.1 71.6 45.0 24.3 38.5 825
23 254 243 243 62.0 (100.0) 42.1 71.0 44.0 23.1 37.7 805
22 248 237 237 61.5 99.0 41.6 70.5 43.2 22.0 37.0 785
21 243 231 231 61.0 98.5 40.9 69.9 42.3 20.7 36.4 770
20 238 226 226 60.5 97.8 40.1 69.4 41.5 19.6 35.7 760
(18) 230 219 219 96.7 34.7 730
(16) 222 212 212 95.5 33.6 705
(14) 213 203 203 93.9 32.4 675
(12) 204 194 194 92.3 31.2 650
(10) 196 187 187 90.7 30.2 620
(8) 188 179 179 89.5 600
(6) 180 171 171 87.1 580
(4) 173 165 165 85.5 550
(2) 166 158 158 83.5 530
(0) 160 152 152 87.7 515
(1)本表はASTM−E−140に基いて編成したものである。表中()内数字は、あまり用いられない範囲のものである。
(2)ショア硬さはJIS B7731−1993による。
(3)引張強さ近似値はJISZ8413及びZ8438換算表から求めた。
(4)……しかしながら関係表はあくまで近似的なものであって、簡便に概略の値を推定するのにとどめるべきであって、換算した値で製品の合否を判定するのは禁物である。すなわち、そのような大事な値は、その種の硬さ試験機でずばりその値を測定しなければならない。(吉沢武男編・硬さ試験法とその応用・裳華房P291)


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